この記事を書いた人:
黒沢哲生(千葉中央メディカルセンター) 医師
下痢になってしまった、お腹がゴロゴロして何回もトイレに行く、様子を見てたけどなかなか下痢が治らない、なんてことありませんか?
下痢の原因には様々なものがあります。自宅で十分に対処できるものから、病院に行かなければ治療できないものまで。
中には大腸カメラを受けなければならない場合もあるんです。
・本当に普通の胃腸炎?
・原因になった食べ物は?
このような疑問について、わかりやすく説明していきます。
目次
その下痢の原因は胃腸炎?
結論から言います。
胃腸炎が原因とは限りません!
ただし、下痢の原因全体で考えると頻度としては食べ物などを介して感染する胃腸炎『感染性腸炎』が最多です。
いわゆる胃腸炎と呼ばれる病気は、主に食品などから体内に細菌やウイルスが入って感染し、主に下痢・腹痛・吐き気などを起こします。
主に炎症が起きているのは腸ですから、医学では基本的に『感染性腸炎』という言葉が使われます。
下痢は続く期間によって考えられる病気の種類が異なります。感染性腸炎の場合が多いですが、違う病気が原因となって下痢が起こる場合もあります。
中には重大な病気が隠れている場合があるため、注意が必要です。
「急性下痢」 持続期間:〜2週間
2週間以内で治まるものを急性下痢といい、このうち最多の原因が感染性腸炎です。
主に原因となる食品などから体内に細菌・ウイルスが入って感染し症状が起こります。体内に入ってから実際に症状が出てくるまでの時間を「潜伏期間」と言います。
潜伏期間は細菌・ウイルスによって異なります。表にすると下のようになります。
細菌・ウイルス | 潜伏期間 | 原因食品 |
カンピロバクター | 2〜7日 | 鶏肉 |
腸管出血性大腸菌(O-157など) | 2〜7日 | 牛肉 牛糞肥料を使用した有機野菜 |
サルモネラ | 半日〜3日 | 鶏卵 ペットからの汚染 |
エルシニア | 約5日(1〜11日) | 豚肉 |
腸炎ビブリオ | 半日〜1日 | 魚介類(夏に多い) |
ノロウイルス | 1日〜2日 | 生牡蠣(冬に多い)、二枚貝 |
ロタウイルス | 2日〜4日 | 不明なことが多い |
黄色ブドウ球菌 | 約3時間 | おにぎり、弁当 |
セレウス菌 | 約3時間 | 弁当、麺類(作り置きしたもの) |
ウェルシュ菌 | 約半日 | 肉類、スープ類 |
原因となる菌は以上にあげたもの以外にも沢山ありますが、大事なことは
症状が起こる直前に食べたものだけでなく、最近1週間以内に食べたもの全てが原因として疑わしい
ということです。思い当たるものがないか、よく思い返してみましょう。また、予防のために特に細菌の繁殖しやすい夏場は食品の取り扱いに注意してください。
「食品に直接手で触れない」「すぐに冷蔵庫にしまう」「手洗いをよく行う」
ことが大事です
細菌性と比較して頻度としてはウイルス性が圧倒的に多いです。ウイルスには特効薬がありませんが、対症療法(症状を抑える治療のみ)を行えばほとんど良くなります。また細菌性の腸炎の場合でも軽症なら抗生剤は不要です。
自宅でできる胃腸炎の治療法、摂るべき食事については⬇️で説明しています。
下痢が続くとき 医師が勧める食事療法
それぞれの細菌・ウイルスの特徴、症状などさらに詳しい情報が知りたい方は⬇️のホームページをお勧めします。一部専門的な内容にはなりますが、正確な情報を知ることができますよ。
参考 食中毒厚生労働省ホームページ
「遷延性・慢性下痢」 持続期間:2週間〜1ヶ月・1ヶ月〜
2週間を超えて下痢が持続する場合、それはただの「胃腸炎」ではない可能性が高まります。普通は感染性腸炎の場合、正しい対処を行えば2週間以内に症状が改善してくることがほとんどだからです。
「遷延性下痢」 持続期間:2週間〜1ヶ月
「慢性下痢」 持続期間:1ヶ月〜
と定義されます。2週間以上を遷延性下痢、さらに1ヶ月以上持続する場合は慢性下痢といい、背景に重大な疾患が隠れていることもあります。ここで考えられる病気は多く、全て挙げることはできませんが、比較的頻度の高いものだけ記載するとこうなります。
薬剤性腸炎: 最近開始された薬の副作用(特に抗生物質・胃酸を抑える薬・鎮痛薬など)
潰瘍性大腸炎・クローン病: 自分の免疫が誤って自分の腸を敵と誤認識して攻撃してしまうことで起こります
大腸癌: 癌で腸が塞がり便秘になることもありますが、炎症がおこって下痢が続く場合もあります
過敏性腸症候群: 腸の動きが過敏になることで、腹痛や下痢が長期間に渡って続きます
これらの他にも様々な病気で下痢が起こりますが、大切なことはこれらは自宅で様子を見ても自然に治ることはあまりないため、
下痢が2週間以上続く場合、病院に行ったほうがよい
自分で判断して様子を見るのは危険で、医師の診察のもと正しい治療を開始する必要がある
ということです。
一般的な治療で治るような感染性腸炎ではない場合、診断には大腸カメラ検査が必要になることがほとんどです。
医師の説明を聞いて検査を受け、きちんと診断をつけてもらうべきでしょう。
一人で悩んでいてもよい結果にはなりませんから、ぜひ病院に足を運んで相談してみてくださいね。
3rd edition, Gut 2018
(2)NIID 国立感染症研究所ホームページ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/intestinal.html
(3)JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015 ―腸管感染症―
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2015_intestinal-tract.pdf