この記事を書いた人:
▶️ 黒沢哲生(千葉中央メディカルセンター) 医師
日本で普及しているファイザーとモデルナの違いって何?
変異株にも効果はあるの?
若い男性では心筋炎の副反応に注意が必要って本当?
今回はこのような疑問に答えます
全世界で進んでいる新型コロナウイルス のワクチン接種。
日本で予防接種法に基づいてまず接種が進められたのは、「モデルナ」ワクチンと「ファイザー」ワクチンの2つです。その後、日本で使用できる3番目の「アストラゼネカ」製ワクチンがこれに加わっています
今回はモデルナワクチンとファイザーワクチンの共通点、また違いは何か
モデルナとファイザー製ワクチンについて比較しつつ、押さえておくべきポイントを現役医師がわかりやすく解説します
目次
モデルナワクチンとファイザーワクチンのメカニズム
モデルナワクチンとファイザーワクチンは共にメッセンジャーRNAワクチンです。
ですから基本的にワクチン接種後に抗体が作られるメカニズムは同じです。
(抗体が作られる仕組みについて、少し専門的な話になります。)
コロナウイルスがヒトの細胞へ侵入するためにはスパイクタンパクというタンパク質が必要です
このスパイクタンパクの設計図となるメッセンジャーRNAを包んだワクチン製剤がメッセンジャーRNAワクチンです
ワクチンを接種するとメッセンジャーRNAが人の細胞内に取り込まれ、これをもとにウイルスのスパイクタンパクが作られます。(注:ウイルスができるわけではありません)
次に、このスパイクタンパクに対する抗体が作られ、さらに免疫応答が誘導されることでコロナウイルスの感染予防が可能になると考えられています。
投与スケジュールの特徴
どちらも2回の接種が必要ですが、モデルナワクチンとファイザーワクチンの投与スケジュールは異なります。
モデルナワクチン スケジュール
1回目の接種後、4週間あけてから2回目を接種します
例:1回目: 8月1日→2回目: 8月29日
ファイザーワクチン スケジュール
1回目の接種後、3週間あけてから2回目を接種します
例:1回目: 8月1日→2回目: 8月22日
ワクチン接種は2回で1セットですから、
この投与間隔に注意してワクチン接種のためのスケジュールを空けるようにしましょう。
ワクチン効果の発現時期の違い
ワクチンを接種してから効果が出るタイミングにも違いがあります。
モデルナワクチン 効果発現時期
モデルナワクチンは2回目の接種後、2週間以降から効果が出ます
例:1回目: 8月1日→2回目: 8月29日
効果発現: 9月12日〜
ファイザーワクチン 効果発現時期
ファイザーワクチンは2回目の接種後、1週間以降から効果が出ます
例:1回目: 8月1日→8月22日
効果発現: 8月29日〜
こうして比較すると1回目にワクチン接種を行ってから十分な新型コロナウイルス予防効果が出るまでに2週間ほどの差が出ることがわかります。
ワクチン接種を受ける以上、早く効果が出たほうが安心できるとは思います。しかし、ワクチン接種会場の予約の都合もあるでしょう。
決して効果発現の早いファイザー製にこだわることなく、早く打てる方でワクチンを打つのが良いと思います。
ワクチンの有効性
ワクチンの有効性についてはほぼ同等で、
vs
ファイザーワクチン:約95%
と報告されています。
両者に差はないため、有効性を気にしてどちらを打つか悩む必要はありません。
変異株への効果の違いについて
結論からお話すると、
といえます。
ファイザーワクチン の大規模接種が行われたカタールからの報告では
ベータ株(南アフリカ 変異株)に対する ファイザーワクチン の予防効果は一般的な種に対するワクチン効果よりも 20%程度低くなる事がわかりました。
しかし、入院例・死亡例は十分に減らす事ができたと報告されています。(重症化を回避できたと考えられた例は全体で90%超 接種2週間以上たっている例では100%)
また、世界で猛威を勢力を拡大したデルタ株についても、従来の株よりはワクチンの予防効果がやや落ちることがわかっていますが、重症化や入院治療の回避には十分に効果を発揮しています
ウイルスは今後も変異を続けながら広がっていくと予想され、今後変異するスパイクタンパクの箇所によってはワクチンの効果に影響が出てくるかもしれません。
副反応に違いはあるか?
モデルナワクチンとファイザーワクチンの副作用は似ています
同じメカニズムで効果を発揮するワクチンなので当然と言えるかもしれません
主な副反応
主な副反応について頻度を比較すると下の表のようになります
モデルナ 1回目 |
モデルナ 2回目 |
ファイザー 1回目 |
ファイザー 2回目 |
|
腕の痛み | 82.7% | 85.0% | 86.6% | 79.3% |
発熱 | 2.0% | 40.1% | 14.3% | 32.8% |
悪寒 | 5.3% | 50.3% | 25.2% | 45.7% |
疲労感 | 18.7% | 63.3% | 40.3% | 60.3% |
筋肉痛 | 37.3% | 49.7% | 14.3% | 16.4% |
関節痛 | 8.0% | 32.0% | 14.3% | 25.0% |
※臨床試験をもとにしたデータです。モデルナワクチンでは発熱(>38.0℃)とされているのに対しファイザーワクチンでは発熱(>37.5℃)と定義されているので、解釈には注意が必要です。
頻度の高い副反応の頻度には大きな差はないと言っていいと思います
多くの場合ワクチン接種後数日の間に出現し、多くは軽度で自然におさまります
大切なのは、これらの数字はあくまで参考程度と考えておくことです。これら副反応の頻度は年齢や性別、もともと持っている病気によって変わる可能性が高く、皆が皆この確率で症状が出てくると思わないでください。
心筋炎・心膜炎の頻度の違い
画像出典:新型コロナウイルスワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について 厚生労働省 新型コロナウイルスワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について
10歳台・20歳台の男性ではファイザー製ワクチンの方がモデルナと比較して心筋炎と心膜炎の副反応の頻度が低いことがわかりました。
そのため、10歳台・20歳台の男性はファイザー製ワクチンを選ぶのが良いと思います
上のグラフをよく見るとわかると思いますが、
注意してほしいのは、新型コロナウイルスに感染した場合の方がはるかに心筋炎と心膜炎が起こる頻度が高いということです。なかなかファイザー製を打てる状況にない場合はモデルナ製を選択するのもひとつの考え方です。
まれな副反応
また、その他にもかなり頻度は低い(ともに約0.02%)ですがアナフィラキシーなど生命の危険を脅かすような強い副反応が出ることもあります。
そして、ワクチン接種が開始されてまもないため、長期的な副作用については不透明です。
もしワクチン接種後に健康被害が生じた場合には、国による「予防接種健康被害救済制度」がありますので、お住まいの各自治体に相談してください。
参考 予防接種健康被害救済制度厚生労働省HP
モデルナアームとは
また、モデルナワクチンについては特徴的な副反応「モデルナアーム」が知られています。これはどんなものかを知っておけば十分に対処ができます
※モデルナアームについてはこちらで詳しく説明していますので参考にしてください
モデルナアームとは 冷やす・塗る 自宅でできる対処法【医師が解説】
子ども(12歳以上)の副反応
2021年12月初旬現在、日本では12歳以上の子どもに対するワクチン接種も開始されています
子ども(12歳以上)のデータについてはこちらにまとめましたので参考にどうぞ
子ども(12歳〜)のコロナワクチン接種 有効性と副反応【医師が解説】
まとめ
以上から、モデルナワクチンとファイザーワクチンについて、その特徴をまとめます。
・投与回数は2回、投与間隔はモデルナ:4週間、ファイザー:3週間
・効果はモデルナ:投与2週間後〜、ファイザー:投与1週間後〜
・頻度の高い副反応はほぼ同じ確率
・10歳台・20歳台の男性ではファイザー製ワクチンの方が心筋炎・心膜炎の副反応の頻度が低い
・変異株に対しても、重症化などの予防効果はある
・長期的な副反応については不明
多少の違いはありますが、結論をいうと効果などの面で決定的な違いはありません。どちらかにこだわるのではなく、ワクチン接種を希望される場合は各自治体で早めに予約が取れるワクチンを打つのが良いかと思います。
色々な情報がSNSなどで飛び交うこの世の中で、新型コロナワクチンについて正しい知識を持って各自で考え行動する必要があります。今回は医学的根拠に基づいたデータをお示ししながら、モデルナとファイザーの比較を行いました。
今後計画されているワクチン接種3回目(ブースター接種)についてはこちらを参考にしてください。
【医師が解説】新型コロナワクチン3回目 効果や副反応を徹底解説
この記事がワクチンについて知ってもらえる機会になれば幸いです
・Significant Scientific Evidences about COVID-19 [2021年6月18日版] https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_sse_210618.pdf
・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html